フィギュアスケート男子で羽生結弦が五輪2連覇を果たした。前日のショートプログラム(SP)は完璧な演技で首位。フリーでは後半のジャンプで着氷が乱れたが、粘って耐え抜いた。合計317・85点の高得点。2位の宇野昌磨、3位フェルナンデス(スペイン)までが300点を超えるハイレベルの激戦を制した。66年ぶりの2大会連続金メダルで「伝説」をつくった。 ▽右足首に「感謝」 右足首故障による練習不足で、演技時間4分30秒(±10秒)の長丁場を持ちこたえられるかが焦点だった。それでも羽生は基礎点が高くなる後半に、4回転2本を含む5度のジャンプを組み込んだ。 前半、2本の4回転と3回転フリップを完璧に跳んだ。後半に入り、4回転トーループの着氷でバランスを崩した。さらに疲れがピークとなる最終ジャンプでも3回転ルッツの着氷がぐらついた。この危機も、転倒は回避して最小限の失点にとどめた。着氷後、懸命にこらえ、体勢を保つ姿に「絶対王者」の執念がこもっていた。 羽生が「史上最高のスケーター」と評価されるのは、ジャンプ、スピン、ステップのいずれにも異次元の質の高さがあるからだ。長い手足を生かした表現力でも魅了。フリーではバランスを逸した2本のジャンプが響き、技術点では宇野らを下回ったが、演技点で最高点を稼いでカバーした。 クライマックス。渾身(こんしん)のスピンで演技を終えると、羽生はしゃがんで、右足首をいたわるように抱えた。一時は五輪出場も危ぶまれた靱帯(じんたい)損傷などの故障を乗り越え、最後まで持ちこたえた。「右足が頑張ってくれた。(足首に)感謝の気持ちだけ」と振り返った。 ▽戦術面でも成長 ソチ五輪でもSP首位だった羽生は、フリーの4回転サルコーで転倒。3回転ジャンプでも失敗した。それでもメダルを争ったチャン(カナダ)やライバルたちも相次いで4回転ジャンプに失敗し、羽生はSPのリードを守って勝った。 4年を経て、男子フィギュアは進化した。有力選手の多くが複数の4回転ジャンプをものにし、習熟度を高めてきた。4回転全盛時代となって、ソチでは許されたミスが、平昌では致命傷になる。 常に高みに挑み続けてきた羽生も、周囲の進歩と自身のコンディションを冷静に分析したのだろう。連覇に向けて金メダル戦略を修正してきた。4回転ジャンプ1個のミスが、メダルの色を変える状況になったからだ。 シーズン当初はルッツを加え、五輪では4種類の4回転で臨むシナリオがあった。そこから、けがの要因となったルッツを断念。「構成は定かでなく、いろいろ悩んだ」(羽生)末に、残るループ、サルコー、トーループの3種類からループも外した。難度は低いが、より信頼性のある2種類での勝負を選択した。 ライバルの演技予定とも比較分析したのだろう。SP2位のフェルナンデス(スペイン)の4回転はサルコー、トーループの2種類が計3本。フェルナンデスと同じ2種類の4回転なら、質の高さで羽生に分がある。4回転3種類を計4本跳ぶ宇野には、演技点で上回ることができる。 戦術変更が成功した。守りに入ったのではなく、現状で勝利を得る最善の策を採用した。「五輪を知っている」というチャンピオンのクレバーな判断だった。 ▽「国民的ヒーロー」 日本のフィギュアスケートは、3回転半(トリプルアクセル)ジャンプの伊藤みどりがブームに火をつけ、2006年トリノ五輪での荒川静香の金メダル、10年バンクーバー五輪での浅田真央の銀メダルでピークに達した。羽生の出現で、女子主導だったフィギュア人気はさらに高まり、裾野を広げた。 アスリートとしての魅力に加え、リンク外でもしぐさや話しぶりに好感が集まる。浅田が「国民的ヒロイン」なら、羽生は「国民的ヒーロー」。彼らの活躍は、フィギュアの難しさと面白さを普通のおじさん、おばさん、そして子供たちにまで広めた。 「ゆづ君、すごかったわね」。「感動して思わず涙が出ちゃった」。日本中のお茶の間や街角で、こんな会話が交わされているだろう。スポーツを楽しめる幸福を、みんなでかみしめた金メダルだった。(共同通信=荻田則夫)
羽生、耐えて「伝説」つくる ゆづ君、すごかった!
2018年2月17日 17:32 | 無料公開
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