「楽しいことが…ごめんね」 父、しつけで突発的に 10万人に1人難病の長男暴行死

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 10万人に1人といわれる難病の長男=当時(38)=に暴行し、死亡させたとして傷害致死の罪に問われた父親のアルバイト、大塚芳男被告(64)=浦安市=に千葉地裁は21日、懲役3年、執行猶予3年の判決を言い渡した。しつけのつもりで突発的に振るった暴力は取り返しのつかない結果に。「健常者と同じ経験を」。長男中心の生活で、障害者の家族会でも積極的に活動していた父。「もっと楽しいことがあったのに。ごめんね」。公判では悔悟の涙にくれた。同じ境遇にある人は「不幸な結果。悲しい」としつつ、「誰にでもこうなる可能性があった」と特有の苦悩や葛藤も明かす。

(社会部・金林寛人)

 「40年前に生まれた時、とてもうれしかった」

 千葉地裁での公判の最終意見陳述で大塚被告は遠い日を振り返った。

◆いさめるつもりで

 「明日は雨だから、仕事に行かない」

 天気予報を見て、長男は不機嫌になった。左半身の麻痺(まひ)、言語障害などの身体障害と知的障害があった。職場に自慢の電動車いすで行けない-。障害の影響か、一度決めるとなかなか譲らなかった。

 就職し、社会人になった長男をいさめるつもりで「朝、天気を見てから決めたら」などと説得を続けると、突然左こめかみを2回たたかれた。

 息子からの初めての暴力。驚くとともに「母親にも同じ事をするのでは」-。「人がたたいたらこのぐらい痛いのだぞ」。同じ場所を2回たたいた。

◆にこやかだった

 翌朝「今日はお父さんが(職場に)送っていく」と声を掛けると「分かった」。にこやかだった。朝食に好物の納豆を喜んで食べていたが、妻は長男の元気が無いのに気付いた。「今日は仕事を休んで寝ていたら」と提案した。

 昼過ぎに部屋に行くと大量の汗。声を掛けても反応が無い。救急車でかかりつけの病院に搬送されCT検査。脳が腫れていた。手術室に空きが無く、市内の別の病院に転送され手術を受けたが死亡した。

 公判に出廷した長男の担当医師によると、長男は左側頭部という普通無い場所に太い静脈があり、他の部分に守られないその付近の出血による急性硬膜下血腫の可能性がある。また血小板の数が少なく、血が止まりにくい体質だった。

◆長男を中心に

 「健常者の子どもと同じ経験をさせたい。親としていろいろな世界を見せてあげたい」

 一家は周囲から見ても長男中心に回っていた。

 海外へ何度も旅行した。ライフジャケットを着て泳ぐのが好き。オーストラリアでイルカとふれあった。乗馬やスキーにも挑戦した。

 自宅にはエレベーター。良い病院があると聞けば遠くても通い、障害者の集まりには家族で積極的に参加した。知人によると、いつも車いすを後ろから押すなど、大塚被告がかいがいしくサポートしている姿が印象的だったという。

 障害者への社会的配慮が進んでいなかった当時、市内の幼稚園には受け入れを拒否され、都内の幼稚園に通わせたことも。妻は当初は長男を外に出すことに抵抗を感じていたが、近所の住民へ積極的に存在を知ってもらうことにした。

 「地域で支え合って、ずっとここで生活してほしかった」からだ。もし年老いて介助できなくなっても施設には入れず、自分たちがアパートに移り、自宅を支援NPOに貸すことで、長男が住み慣れたわが家で暮らせるようにという将来図も描いた。

◆自慢の父親

 「キレやすかった」長男とけんかしてもすぐに仲直り。通っていた福祉作業所の職場で困ったことがあった時でも「うちのお父さんだったら、(なんとか)できる」と周囲に言い張ったほど、長男にとっては自慢の「何でもできる」父親のはずだった。

 警察に拘留され、死に目に会えず、葬儀にも参列できないまま永遠の別れに。死亡した日は、長男の誕生日の3日後だった。

 「傷つけるつもりは一切なかった。やりきれない気持ちでいっぱい。もっと楽しいことがあったのに、ごめんね」

 公判の被告人質問で涙ながらに亡き長男へ謝る大塚被告の姿に、ハンカチで涙をぬぐう裁判員もいた。

◆「誰にでも可能性が」 被告参加の家族会会長

 「私が同じ立場だったら同じ事をしていたかもしれない。誰にでもこうなる可能性があった」

 事件について、そう話すのは大塚被告と長男が参加していた知的障害者の家族会「手をつなぐ親の会浦安」(会員約70人)の川口英樹会長(75)。知的障害のある3歳上の姉がいる。

 川口会長によると、大塚被告は夫婦で長男と積極的に参加。「親として責任を果たそうと懸命に介助する姿が印象的だった。長男は素直でトラブルは少なく、元気に活動していた」。だから驚きを隠せない。「しつけでよかれと思ったことで不幸にもこういう結果に。悲しい」と声を落とす。

 「障害のある家族を持つ人は第三者に見えない、理解し難い悩みを抱えることがある」という。「健常者でも親子の事は外からは分からないが」と断り、「障害があるからこそ溺愛することもあり、それぞれに特有の苦しみや葛藤もある」。そして「障害者の家族は家庭内で起きた問題や自身の葛藤を隠しがち」だとする。

 そのうえで「二度とこのようなことを起こさないために、同じ境遇の家族同士で、家庭内や日常で『こういう時にどう対応したのか』など知恵を出しあう場や、医師など専門家のアドバイスを受ける機会が増えたら良いのでは」と提言した。

 「長男がつながりを残してくれた同会の活動などに生涯をささげる」と公判で語った大塚被告を、「もしアプローチしてくれるのなら、障害のある子どもたちのために一緒に活動したい」と歓迎した。

◇スタージ・ウェーバー症候群 患者の家族会「スタージウェーバー家族の会」によると、およそ10万人に1人が罹患(りかん)するといわれる難病。原因は不明で、血管腫による、てんかん、顔面の赤あざ、緑内障などが主な症状。てんかんによる精神・運動発達遅滞や、てんかん発作を抑える脳外科手術のため半身麻痺を生じるケースもあるという。