私の小倉台日記

■プロフィール
勝山朗子(かつやま・あきこ)
  小説家、エッセイスト。房総文化懇話会会員。文学サークル『槙』同人。共著に『千葉児童文学選集』『槙・文学選集1・2・3』『何がそんなに…』など。千葉市在住。


夫婦の呼び方

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 最近、新しい友人が出来た。わが家の前を通る人なので顔なじみではあった。

 あるとき私が電動スクーターに乗っていると、「いいものに乗っていますね」と声を掛けられた。

 えんじ色のスクーターは目立つらしい。四輪で自転車よりずっと遅く、早足で歩く程度の速度だ。小倉台の中で私の他に二人これに乗っている人を見かけた。見かけると会釈を交わし、二言、三言お互いに足腰の具合などを話合う。

 スクーターに乗っていない人でも同じぐらいの年の人が「免許は必要ですか」「運転はむずかしいでしょう」などと興味をもって聞いてくる。

 その新しい友人もスクーターが切っ掛けだった。わが家の前を通るということだけしか知らなかったのに、話してみると同じ七丁目だった。それからは偶然に会うことが重なった。

 私が庭で水を撒いているとその人が通りかかったり、ネコのコマを抱いて七丁目の公園を歩いているとその人も散歩の帰りだったりした。

 「あら、なあに、ネコ抱いてるの?」。だれでもネコを抱いていると不思議がる。犬との散歩は当たり前なのにネコを抱いていると「変な人」に思われる。ネコだって外の空気に触れたいのだ。夕方になると公園へ行こう、早く行こう、と催促をする。とくにうちのコマは七丁目公園の草が大好き。シャリシャリと音を立てて人間がサラダを食べるように草を食べる。

 その人と話していると「パパ」という言葉が時々出た。「パパってご主人?」「そう、うちは子供がいないけど主人をパパって呼ぶの」「いい呼び方ねぇ。私も子供いないけど」「何て呼んでるの?」「名前を。知り合ったときのまま」。

 公園で別れるとき「また会いましょう」と私が言うと「怖くないじゃないの」と言う。何のことかと尋ねると、「怖い人だと思っていた」とのこと。私は人を怖がらせるほど無愛想なのかもしれない。

 以前ペット屋さんに「ママ」と呼ばれたことがある。セキセイインコを長く飼っていたときのことだ。しかしねぇ、私はインコを産んだ覚えはないのだ。

 「でも、『おばちゃん』は変ですよぅ」とペット屋さんは言う。私は甥や姪に『おばちゃん』と言われ慣れているので何の不自然も感じなかった。

 次にその人と会ったとき「今、パパに自分では見えないところ薬を塗ってもらってたの」と、ごく自然に言うではないか。すてき、と思った。子供がいなくてもパパと呼ぶのもいいものだ。私もそう呼んでみようか、でも面映ゆい。

 その人は私より年上らしいけれど、気持ちの可愛らしい人に見えた