御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


父子の確執と和解に感涙 ビッグ・フィッシュ(東宝) 【御木平輔のミュージカルランド】

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エドワードの川平慈英(左)と妻サンドラの霧矢大夢

 巨人、人魚姫、魔女…。父エドワード(川平慈英)はホラ話(ビッグ・フィッシュの俗語)が大好き。息子ウィル(浦井健治)は子供の頃は父の作り話が好きだったが、長じるに従いうっとうしくなってきた。やがてジョセフィーン(夢咲ねね改め赤根那奈)と結婚したウィルは父と疎遠になる。そんなある日、エドワードが倒れたという知らせが母サンドラ(霧矢大夢)から届いた。身重の妻と父の元に駆けつけたウィルはひょんなことから父の真実の一片を知るのだった…。

 ダニエル・ウォレスの小説「ビッグ・フィッシュ」の世界を奇想天外な映像にして映画ファンをうならせたのが鬼才ティム・バートン監督。その映画版を下敷きに2013年にミュージカル化に挑んだのがスーザン・ストローマン(演出・振付)、ジョン・オーガスト(脚本)、アンドリュー・リッパ(作曲・作詞)。残念ながらブロードウェー公演は短命に終わったが、佳作の評判が高く日本初上陸。日本語版の演出は白井晃だ。

 私事で恐縮だが、亡父と自分との確執の数々が脳裏に浮かび涙があふれた。ドラマは現実世界と父エドワードの空想世界が入れ子細工になっていて、その入れ子細工に自分の思い出が挿入され、不思議な観劇体験だった。プログラムの中で演劇評論家の小山内伸氏が入れ子細工の傑作ミュージカル「ラ・マンチャの男」とテーマが似ていると指摘しているが、その通りだと思った。

 テーマソングとも言えるカントリー風の曲『ヒーローになれ』。幕開きは父エドワードが歌い、幕締めに息子ウィルが歌って、その息子につなぐというDNAソングだ。「物語のヒーローに人生のヒーローに」のフレーズが耳に残る。

 主人公のエドワードを演じる川平慈英はドンピシャリだ。ほとんど出ずっぱりなのだがパワフルでエネルギッシュな演技と歌、ダンスは他に類を見ない。

 ウィルを演じた浦井健治は父との確執と和解が人間の成長に不可欠であることを知り、それを息子に継いでゆくという難しい流れを自然に演じていた。この自然体が素晴らしい。その男2人を支える女優陣は宝塚出身者だ。霧矢大夢(きりや・ひろむ)も赤根那奈も男2人の確執に対して距離感を持って接する賢さを体現。これが夫婦愛や家族愛ひいては人類愛につながってゆくという懐の深さを感じさせてくれた。

 そしてウィルが父の真実の一片を知るキーウーマンは鈴木蘭々が演じた。原作や映画と違ったドラマ展開が真実味をもたらした。これは観てのお楽しみ。

 【メモ】2月28日まで日生劇場で上演中。問い合わせは東宝テレザーブ、電話03(3201)7777。



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