御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


現代にリンクする群像劇 グランドホテル(宝塚月組) 【御木平輔のミュージカルランド】

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 ナチス台頭前夜の1928年。ベルリンの豪華ホテルにはそれぞれの夢と悩みを抱えた宿泊客が訪れる。ほんのちょっとした出会いによってホントの愛が生まれ、悲劇も生まれる…。

 そんなホテルの1日半の悲喜をつづったのがヴィッキー・バウムの小説だ。32年にはグレタ・ガルボ主演で映画化され大ヒット。それをスタイリッシュなミュージカルに変身させたのがブロードウェーの貴公子といわれたトミー・チューンだ。美的センスに貫かれた無駄のない演出とシャープな振り付けが絶賛を浴び、90年にはトニー賞受賞。なんと93年には宝塚版(主演は涼風真世)に仕立て直し宝塚歌劇史に残る名作を創出した。今演では新生月組の新版にも特別監修として携わっている。演出は岡田敬二、生田大和。

 ≪文無しの男爵(珠城りょう)は空き巣に入ったホテルの部屋で失意に沈む伝説のバレリーナ(愛希れいか)と恋に落ちる。一方、余命いくばくもないユダヤ人の簿記係(美弥るりか)は男爵の口利きで一獲千金の長者に。だが破れかぶれの男爵は社長の部屋に忍び込み…≫

 今演で一番耳に残った楽曲が、開幕直後に歌われる『Some Have Some Have Not(富者と貧者)』(作詞・作曲ロバート・ライト&ジョージ・フォレスト/歌詞改訂モーリー・イェストン)。ホテルに泊まる富裕層を前に、食器ケースを抱えたホテル従業員たちが一列に並び、食器をガラガラと打ち鳴らしながら聞こえよがしに不平を漏らす短い場面。格差社会が広がる今とオーバーラップする。

 ところで宿泊客たちもほとんどがアンハッピーなのだ。時代背景が崖っぷちなのだから。翌29年の世界恐慌、その後はユダヤ人排斥のナチスにつながり第二次大戦へと。トランプ大統領の移民排斥、欧州の難民問題など現代とビックリするほど符号が一致する。

 前回の宝塚版は簿記係に焦点が当たっていたが、今演は男爵だ。男爵とバレリーナの関係はうそっぽい話なので二人の力量が問われる。珠城は気品と人の良さを加味し、愛希も気位の高さと弱さを同居させ、説得力ある場面を創造した。美弥は生への喜びをカウンターバー(横棒)を使ったダンスで爆発させる。その横棒は人生の<暗から明へ>の境界線なのか。ただし待ち受ける未来はユダヤ人にとって絶望そのものという歴史的事実に暗然となるのだ。

 【メモ】3月26日まで東京宝塚劇場で上演中。問い合わせは同劇場、電話03(5251)2001。



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