御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


斬新なシェイクスピア劇 お気に召すまま(東宝) 【御木平輔のミュージカルランド】

  • 0
  • LINEで送る

ロザリンドを演じる柚希礼音(ゆずき・れおん)

 「人生は芝居、人はみな役者」。この台詞(せりふ)を書いたシェイクスピア(沙翁)が役者として舞台に立ったかもしれない芝居が「お気に召すまま」(1600年頃初演)。ブロードウェイの俊英たちが現代風に焼き直して、ポップでカラフルな日本発の音楽劇に仕立てた。演出は「春のめざめ」でセンセーションを巻き起こしたマイケル・メイヤー、古典を現代に甦らせる手法が持ち味だ。音楽は斬新なロックミュージカル「ネクスト・トゥ・ノーマル」でトニー賞を受賞した作曲家トム・キット。海外の優れたクリエイターが日本のミュージカルに新風を送り込んでいる。

 演出家は、時代を米国の1967年に限定した。1950年代の冬の時代(赤狩り旋風)を吹き飛ばすように音楽や美術、映画などのカルチャー文化が一斉に花開いた年だ。原作の<宮廷>をワシントンD.C.に移し、<貴族>をニクソン政権下の政治家たちに置き替えて、若者たちをせっせとベトナム戦争へ送りだした。一方、原作の自由の地<アーデンの森>は米西海岸に移し、戦争に反対するヒッピーたちは武器を花にして聖地サンフランシスコを目指した。その数10万人…。

 ≪政治家の叔父に毛嫌いされたロザリンド(柚希礼音)は男装してヒッピーの聖地へとたどり着く。一方、兄に嫌われたオーランドー(ジュリアン)も聖地へ逃げ、二人は再会する。しかし彼は男装の彼女の正体に気付かないのだ…≫

 これが物語の骨子だが、最後には何組ものカップルが誕生する喜劇だ。ほとんど台詞を変えずに現代風にアレンジした演出は特筆。元宝塚星組トップスターの柚希、男装してオーランドーに恋の手ほどきをする場面がいい。バリバリの男役ではなく必死に男の子を演じる健気さが新鮮。♪「ご婦人方は男の私を殿方は女の私を~」と幕切れの口上歌『お気に召すまま』は癒やし系のフォークロックでこれまた新鮮。でも幕間にも流れる60年代の大ヒット曲、ママス&パパス♪『夢のカリフォルニア』やスコット・マッケンジー♪『花のサンフランシスコ』などが耳に残り、トム・キットの曲の印象が薄くなったのは残念。

 ところで原作に登場する子羊たちが思いもよらない何かにすり替わっていて微笑ましい。オーランドー役のジュリアンの真っすぐさが、恋する女性の男装を見抜けない芝居仕掛けを救っていた。ロザリンドのいとこ役のマイコが軽やか。沙翁が演じたかもしれないオーランドーの老僕、青山達三が好印象。トランプ米政権はあの冬の時代へ逆戻りか。

 【メモ】2月4日まで有楽町のシアタークリエ。問い合わせは東宝テレザーブ、電話03(3201)7777。



ミュージカルランド