御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


性的少数者たちの珍道中 プリシラ(東宝) 【御木平輔のミュージカルランド】

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 ♪『西へ行こう Go West』(1979年ヴィレッジ・ピープルの大ヒット曲でサッカー日本代表の応援歌でも有名)が流れると一気に盛り上がる。3人のドラァグクイーン(女装芸人)がオーストラリア大陸を西へとバス・プリシア号で旅を始める。この曲、70年代ゲイ達の応援歌で米西海岸をユートピアとみなし西へ向かったのだ。だから劇中の3人が向かった先もシドニーから見れば西の聖地だ。

 3人には性的な悩みがある。旅の呼びかけ人ティック(山崎育三郎)には妻子がいてジェンダー(文化的社会的な性差)に悩んでいる。美しいが生意気なアダム(ユナク)は父に性的虐待を受けトラウマに。母性的存在のバーナデット(陣内孝則)は性転換しながらもやはり女に生まれるべきだったと。そんなワケアリの珍道中が70、80年代に大流行したマドンナやドナ・サマー、シンディ・ローパーのヒット曲によって彩られる。けばけばしい衣装は悩みを隠す鎧(よろい)か、あるいは武器なのか…。果たしてティックは聖地で妻子と出会うことができるのか。

 このミュージカルは2006年にシドニーで初演され、その後、ロンドンやニューヨーク(ここで僕は観たというより踊った)を始め世界中で上演されている。ちなみに原作は1994年公開の同名映画だ。今演が日本初上陸で日本版の演出は宮本亜門、衣裳以外は演出も舞台美術(松井るみ)もオリジナルである。

 実はシリアスな題材を派手なディスコソングで包んでいると言ってもいい。いわゆるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル=同性愛、トランスジェンダー=性同一性障害)など世間から爪はじきされる性的少数者が主人公だからだ。日本でも最近、行政側が同性婚を認めつつあるが、一方でそのような多様性を認めない政治家もいて、今演の日本上演はタイムリーと言えるのではないか。宮本の演出は日本の不確実な現実を透かし彫りにし、テーマの「受容」を印象付ける。

 山崎の役は難しい。男でも女でもない<コトバ>を操らなければならない。でも無色透明に近い稀有(けう)な役者なので嫌みのない主人公を創造。歌にノビシロがあり性を超えた存在を感じさせた。陣内は登場しただけで笑いが生じる役者だが、終始抑え気味の演技が深みをもたらした。ユナクには華を感じた。3人のディーバ(ジェニファー、エリアンナ、ダンドイ舞莉花)の歌唱力は折紙付。旅の途中で出会う人妻の池田有希子、そのはじけっぷりは観てのお楽しみ。

 【メモ】29日まで日生劇場。問い合わせは東宝テレザーブ、電話03(3201)7777。



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