本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「連なる記憶」 『日本その日その日』

  • 0
  • LINEで送る

イラスト 藤原あずみ

 「展示品の古道具が可愛いよ」と娘に教えられ、昨年の秋、江戸東京博物館までモース展を観に行ってきた。私が懐かしいと感じる骨董類を、娘は可愛いと表現する。表現の違いはあっても、好ましいと思う根っこは一緒だろう。

 モースが蒐集した明治期の庶民の生活道具は、確かにどれも「可愛かった」。使われて可愛くなったのだろうし、年月に晒されて美しくもなったのだろう。だが、もともと、丁寧な手仕事によって美しく生まれたものなのだと眺めてきた。大量生産によって作られたものとは明らかに違う。手間暇をかけてもの作りをした、昔の日本人の心が感じられた。心を奪われたのは、小さな縁起熊手だった。自然物だけを使い精巧に作られていた。プラスチックのけばけばしさばかりが目立つ、現代の安っぽい縁起物とは大違いだった。

 モースの名は、大森貝塚の発見者として、私たちには馴染みが深い。モースは動物学者であり、腕足類の研究の為に来日し、東大で教鞭もとった。晩年、克明な日本滞在記『日本その日その日』を残した。西洋文化の波に晒される以前の日本人の暮らしの豊かさが、モースの称賛と親愛のまなざしを通して綴られている。その世界観は、日本人の私たちにとってさえ、今は昔、お伽噺のように美しい。鎖国によって守られた風土の中で、繊細で美しい文化を日本人が築き上げてきたこと、それを西洋化によって瞬く間に失ってしまったことに、改めて気づかされる。

 小泉八雲の名で有名なラフカディオ・ハーンも『日本瞥見記』の中で、日本人の謙虚さ、忍耐強さ、温厚さ、勤勉さを繰り返し書いている。ハーンを意識しながら、モースを読むと、ハーンは民俗学者の目を持ち、モースは科学者の目を持っているのがよくわかる。文系と理系それぞれの視点でありながら、日本の情緒を深く愛し日本人の心根を好ましく思ってくれた点で、二人はよく似ている。ハーンは「にこにこしている小さな人たち」と日本人を形容した。巷に溢れていた「にこにこした小さな人たち」を見つけるのは、昨今では難しい。不機嫌だったり横柄だったり、自己主張をして相手より優位に立とうとする人ばかりが多くなってしまったから。

 本業である腕足類と同じくらい、日本の文化はモースの心を捉えたらしい。『日本その日その日』には、当時の風景、風俗がこと細かく記されている。両利きの彼が、両手を使って描いた巧みなスケッチもたくさん挟み込まれている。......

 【メモ】「日本その日その日」モース・平凡社(東洋文庫)

本の贈り物のご意見・ご感想をこちらからお寄せください。