銀幕への誘い


巨匠描く次代の英雄 ブラックハット 洗練画面に映す巧妙犯罪

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映画「ブラックハット」のクリス・ヘムズワース(C)Universal Pictures

 現代の世界を揺るがす陰謀に、映画は新たな英雄を求める。正体不明の組織によるサイバーテロで環太平洋地域が震撼(しんかん)する物語。巨匠マイケル・マン監督はIT技術の進化に伴い巧妙化する犯罪を精細に描く。激しい銃撃戦、政治的な駆け引きもある濃密な展開。前作から5年のブランクを感じさせないスタイリッシュな画面で、上質なサスペンス・アクションに仕上げた。

 香港の原発がハッキングされた後、シカゴの先物取引所も被害を受ける。中国のサイバー防衛担当軍人(ワン・リーホン)は、米国で服役中の天才プログラマーの主人公(クリス・ヘムズワース)の釈放を求め、共に組織を追跡する。

 うごめき、異様に光るマルウェアは、瞬く間にネットワーク上からコンピューターに侵入していく。巨匠により映像化されたその姿は、目に見えぬまま生活を破壊される恐怖を訴える。乗っ取り後、何の要求もない組織。2事件の共通点の少なさが物語を混迷へと導く。悪人は銃火器だけでは退治できなくなった。時代感覚に優れ、対応できる人物を求めるのは必然である。

 軍事的に緊張感が高まることもある2国が、実態のない組織に対して手を結ぶのも当世の流れだろう。サイバー空間に国境はなく、地球上のあらゆる場所がターゲットとなり得る。軍人と天才は大学の同級生。政治的な思惑抜きに現場で意思疎通する過程にリアリティーを帯びる。痕跡を探りマレーシア、インドネシアとスケールを広げる展開は奥行きがあり、観者を劇中に引き込んでいく。だが、明確な証拠のない捜査は両政府の支援を得られない。脚本は頭脳派の主人公に負荷を掛け、肉体派への脱皮を迫る。

 アル・パチーノとロバート・デ・ニーロの2大スターが共演した巨匠の「ヒート」(95年)さながらに、本作でも銃撃戦の再現が徹底される。特に音響効果は抜群で、試写室で隣席の中年女性が耳を手でふさぐほどである。耳をつんざくライフルや拳銃の発砲音よろしく、港ではコンテナを貫く金属音、建物に跳弾する重低音が体の芯まで震わせる。飛ぶ血しぶきも鮮やかで、市街戦に紛れ込んだような臨場感を堪能できる。

 広範なロケーションも混沌(こんとん)とする物語に拍車を掛ける。シカゴとして撮影されたロサンゼルスのアッパータウンにダウンタウン、東南アジアの高温・高湿度の雑踏にネオン街…さまざまな表情は、二転三転する犯人像とリンクし相乗効果を挙げる。

 巨匠は「レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙」(86年)でブライアン・コックス演じる知的なレクター博士を世に送り出し、その後、アンソニー・ホプキンスが怪演して彼の代名詞となった。本作の主人公も次代の英雄の原型になるかもしれない。(廣)

 【メモ】14年アメリカ。上映133分。県内のTOHOシネマズ八千代緑が丘、都内のTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー。