実はしたたかな処世術か? 「85枚の猫」 イーラ著(新潮社・1680円)

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 癒やし系の動物として挙げられるのは、身近な存在で犬か猫だろう。国内外の有名な詩人や作家をはじめ人はどちらかの派に大別されるが、記者は断然、猫派である。あの個人主義、自由気ままな生き方がよい。

 さて、本書は猫写真集の「古典的名作」と呼ばれる。「85 CHATS」(1952年刊)の日本語版で、動物写真家・岩合光昭が前書きで「ぼくの教科書のひとつ」と絶賛。ウィーン出身のイーラ(本名カミーラ・コフラー)は55年、不慮の事故で44歳の短い生涯を閉じたが、彼女が写真界に与えた影響は大きい。

 猫目線に合わせたショットが素晴らしい。今から半世紀以上も前に、こういったアングルの接近撮影は希有(けう)だったろう。両目が生き生きとした光を放ち、表情の魅惑が倍増する。圧巻は後半の子猫の空中連写。快活で愛嬌(あいきょう)にあふれる。

 本書をながめたのち、書棚に積んだままのポール・ギャリコ著「猫語の教科書」(ちくま文庫)を手にとっていた。猫が書いた体で、人間社会における各種処世術がつづられる。「猫はどんなときでも、妖艶でしとやかで(中略)かわいらしい存在であり続けなくてはならない」との訓示があり、つまりはそうとうな演出家兼役者なのだ。こうした計略をもって、孤独な人間が猫を必要とするように仕向けているという。視座を猫に変えることで、面白い発想が生まれるものだ。

 ポール・ギャリコといえば、豪華客船の転覆映画「ポセイドン・アドベンチャー」(72年)の原作者。映画つながりで、昨年8月に公開されたドキュメンタリー「ネコを探して」を思い出した。作中、猫は駅長になって赤字ローカル線を廃線の危機から救ったり、認知症の終末医療施設の患者の最期を看取ったりと、大活躍する。しかし、これもギャリコの本に従えば、したたかな処世術になる。

 本書を開いただけで、さまざまに考えが巡る。待てよ、猫の計略にまんまとはまったのではないか?まあそれでもよいと、かわいい写真に目がほほ笑む。 (文化部 安原直樹)


写真集の狩人