誇りの大地の復興を信じて 「たんぼ」 ジョニー・ハイマス著(NTT出版・3900円※絶版)

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 たんぼ。日本人がいく星霜を重ねて作り上げた繊細な地形美である。それが東日本大震災の強大なエネルギーによって一瞬で破壊された。地震による液状化や水路の寸断、津波による土砂流入や塩害などで、本県北総の穀倉地帯の一部をはじめ多くの被災地で作付けできないという。

 本書には大震災前の米所新潟を中心に田園風景が広がる。都会に働く私たちが生産効率を優先するあまり、ないがしろにしてきた生命の源をイギリス人写真家が切り取ってみせたのだ。田植え前、水を張った美田から始まる1年の物語。愛機ハッセルブラッドのカールツアイス・レンズが詩情豊かにつづっていく。

 吹き抜ける風、そよぐ稲の旋律。青々とした稲についた水滴が逆光に輝く。広角から望遠のレンズが画角のリズムを奏でる。まさしく自然賛歌である。やがて日が山の端にかかる。たんぼの脇で野焼きの煙が夕焼け空に高く昇り、麦わら帽子の農民がその奥をゆっくりと横切る。「晩鐘」「落穂拾い」などに代表される農民画家ジャン・ミレー(1814~75年)の絵を思わせる。

 日本に稲作が伝わってきたのは、約2000年前の縄文時代後期とされる。以来、年1回の米作りの光景が繰り返されてきた。連綿と続いてきた農作が大震災によって止まり、被災のたんぼは今年、沈黙の春を迎えた。ここで風景の連続性を考える。たんぼには農業従事者の試行錯誤の歴史がある。彼らはただ漫然と自然に身を委ねていただけではないのだ。狭い国土の山間部を切り開いて棚田を作り、稲の品種改良で生産高を上げた。人の手の偉大さにあらためて敬服する。

 写真家は撮影に際し、英国画家ジョン・コンスタブル(1776~1837年)の言葉を胸に抱く。

 醜いものなどあろうか。生まれてこのかた醜いものに出会ったことはない。光が、影が、そして取り囲むものが、どんなものでも美しくみせるのだから。

 視線の先にある万物への感謝と祈り。誇りの大地の復興を信じたい。 (文化部 安原直樹)



写真集の狩人