月に干支の卯はいるのか? 「FULL MOON」 MICHAEL LIGHT編(KNOPF・24・95ドル)

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 冬の清澄な夜空に月が煌々(こうこう)と輝いていた。クレーターや山など地形の凹凸によって、ウサギが臼ときねでモチをついているように見える。「そうだ、来年の干支は卯だった」とぼんやり思いつつ手に取ったのがこの本だ。

 本書はNASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙飛行士が撮った月面世界などのカットを収める。木村伊兵衛賞フォトグラファーの川内倫子が好きな写真集に挙げた1冊で、その出来は「別に、私がこの仕事をやらなくてもいい」(「STUDIO VOICE」2005年4月号より)と写欲を失わせるほどすばらしい。最初のロケット打ち上げ、最後の帰還のカットの間で、私たちは上質のSF映画を見る。その映像迫力に圧倒される。

 月、有人探索機、宇宙服、地球の色調、質感などのディテールの積み重ね。そして、無限に広がる宇宙の無重力空間。中判ハッセルの名玉カールツァイスならではのパースペクティブな描写力だ。いずれも月までの往復キップを手にした人類のみに撮影を許可された作品なのである。アメリカのアポロ11号が月面着陸に成功したのは、1969年7月20日だった。当時の写真器材が、単なる観察あるいは記録目的を芸術に昇華させたのだ。

 古代から人類は太陽と並んで月に信仰心を抱いてきた。竹の中から生まれたかぐや姫が満月の夜に旅立つ「竹取物語」が、日本では古典の代表作としてあまりにも有名だ。また、映画の世界でも奇術師ジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」(1902年)以来、多くの名作で月は重要な役割を果たしてきた。モンスターものでは満月の光で変身するオオカミ男映画が、主人公や舞台の設定を変えながら今もなお作り続けられている。変身は潮汐力の作用をベースとした発想と思われるが、とにかく月と人類との関係は深い。

 地球から月までの平均距離は約38万4400キロ。見上げた空の月にモチをつくウサギの姿、手にした本書に宇宙の神秘、視覚の混交がおもしろいのである。(文化部 安原直樹)



写真集の狩人