忙人寸語

忙人寸語(2017年3月19日)

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 「モナ・リザの微笑(ほほえ)み」。この名画は謎だらけだ。モデルはフィレンツェの裕福な商人の妻というが、画家の自画像、聖書のマグダラのマリア…など諸説

▼“彼女”が本当に笑顔なのかも議論があったが、モナ・リザから多くの人が「喜び」の感情を読み取っているとの実験結果を、ドイツの脳科学研究者が明らかにした。口角を上下させ喜びと悲しみを強調した画像と原画を無作為に見せたところ、97%が原画を喜びの表情と受け止めた

▼優れた芸術は神秘的だが、特に肖像画には魔力を感じる。描くためにモデルの内面奥深く入り込むからか。モナ・リザも実物を見ると、やがて心を見透かされているような、居心地の悪さを覚える

▼国立西洋美術館で開催中のフランス人画家、シャセリオーの本邦初の回顧展では、一枚の肖像画の前から動けなくなった

▼ギリシャ出身の画家、エル・グレコが娘を描いたという肖像画の模写は魅惑的だ。あまりの出来に師匠のアングルが手放すなと忠告したのに、画家は恋人に贈った挙げ句、諍(いさか)いとなり自ら絵を切り裂き、蜜月も終わる。画家が37歳で夭逝(ようせつ)し、修復された肖像画を遺族から受け取った元恋人は「この手に戻るまで35年かかった」と涙ぐんだ

▼そういえば、村上春樹氏の新作小説「騎士団長殺し」は肖像画家が制作を通じ魔界に入り込む奇譚(きたん)。ページを繰る手が止まらない。